2022.03.16

在宅医療やサービス分野編③

在宅に向いている看護師さんの「タイプ」と選ばれる看護師になるための「考え方」

今回は、在宅分野に向いている看護師さんの「タイプ」と在宅で選ばれる看護師になるための「考え方」について触れていきます。

前回は私の経営している会社で有料老人ホームや訪問看護や介護といった事業所に提供している「利用者・ご家族の満足度アンケート」の実際をご紹介しました。じつはこの満足度アンケートのひな形を作ったのは、在宅の分野で不本意ながらもクレームを頂戴したスタッフです。組織でクレームを頂戴するスタッフは、そもそもコミュニケーションに関してなんらかの課題を抱えていることが多いものです。そうしたスタッフに、「もう絶対にクレームもらわないでね」と注意をしたり、「反省文」を書いてもらったりなどの一般的な指導をしてもあまり効果がありません。こんなときは、本当の意味で「クレーム」につながってしまった言動の「リフレクション」(振り返り)ができ、「ピンチをチャンス」にできるような機会を作ってあげることの方が人を育てます。特に在宅の分野ではサービスを提供する対象は「利用者さん」という立場で、訪問看護や介護事業者を選ぶ権利を持っています。また、競合他社の多い事業所で働いているスタッフは日々競争にさらされているため、クレームに関して敏感にならざるを得なく、クレームをもらってしまった職員に厳しい目を向けてしまいがちです。結果、そのスタッフが組織からはみ出してしまうこということが起こります。私はクレームという出来事が組織の更なる「サービスの改善」につながり、クレームをもらった本人も、再び「職場というチームメンバーに戻れるような機会を作る」のが、よいマネジメントだと思ってやってきました。接遇委員会の顧問などを務める中で私は、「クレームをもらった本人」が自分と向き合い、どうやったら「より良いサービスを提供できるのか」を考える上でも「クレーム」をもらった本人に「顧客満足度アンケート」を作成してもらったり、クレーム予防の動画教材などに出演してもらったりを勧めてきました。「リベンジ」のチャンスをうまく活かすことができれば「クレーム」は「リソース」に変わります。「いつもクレームをもらう人」というレッテルを貼られたままでチーム(職場集団)に戻ることは難しいので、これらの役割はクレームを頂戴してしまったスタッフにとっても成長するよいきっかけになったようです。本誌を読んでくださっている方の中には組織で管理職として働いている方々も多いと思いますので、参考にしてくださると嬉しいです。

for meタイプかfor youタイプか

弊社で資格認定しているコーチングの中にはfor meかfor youかというタイプ分析があります。これはどちらのタイプがよいとか悪いとかということではなく、何かを決定するようなときに「自己」と「他者」の存在のどちらがより自己を動機づける要因になるかで人の違いを分析し、より自他への理解を深めようとするツールのひとつです。これまでの人生で大きな決断だったなぁという「3つのこと」を思い出してもらい、その決断は「自己」と「他者」どちらの存在が決断の決定打になったのかをふり返ってもらいどちらのタイプかを見つめてもらうのですが、ちょっと皆さんもやってみましょう。

  • これまで自分の進路を決めたとき
  • 進学先や就職先を決めたとき
  • 住まいを決めたとき 

どんな理由で決定してきたでしょうか。例えば、「本当は東京の大学に進学したかったけど地元を離れないでほしいという家族の意向を優先し近くの大学にした」など「他者の存在」が選択に影響したという方はfor you。「両親は止めたけど『一刻も早く看護師になりたい』と決意し、高校生から全寮制の5か年一貫校に進学した」など「自己の存在」が選択により影響したという方はfor you。「患者さんがよくなっていく姿を見るのが何より嬉しい」とか「患者さんの『ありがとう』が仕事のやりがい」という言う方はfor youのタイプで、「完成度の高い仕事をしたときの達成感が次へのエネルギー」とか「自分がやりたいと惹かれたことをとことん追求したい」という方はfor meタイプかもしれません。と、こんな感じでいろんな事例をお話しし、自身はどちらのタイプであるかを洞察してもらうのですが、読者の皆さんはどちらだったでしょうか。私の個人的な見解ではオペが大大大好きなドクターや教員でも面白い講義を追求してやまない人や研究で成果を出すことに人生をかけているというような方々はfor meかな、と思っています。(あくまでも個人的見解ですが 笑)

教育支援先の病院で、手術の腕がよく他県から患者さんが先生の診察を希望して集まってくるのに、パソコンの画面ばかり見て患者さんと目も合わせず、声掛けもほとんどしないという整形のドクターがいて困っていると相談を受けたことがありました。(きっとそのドクターはfor meで無意識)外来の看護師さんにはfor youの方が多かったので、「for me」の人を「for you」で囲むことができれば最強チームになれますよ!とアドバイスしたら、外来の評判が上がり、患者さんが倍増したと言うことがありました。外来ナースは先生がぶっきらぼうな対応をするとすぐに外来の端っこで患者さんに「先生は、本当に心配しているとつい、ぶっきらぼうな言い方をしちゃうんですよ」なんてフォローしていました。(笑)さすがです。そのドクターに「先生、患者さんが倍増してすごいですね。」と言うと「ナースが優秀なんで、助かってますね…」とボソッと返してくれました。こんなふうに自分のタイプを知り他者のタイプを知ることで補完し合うとさらにスタッフ同士のコミュニケーションも良好になっていったりします。また、悪気はなかったのに、クレームにつながってしまったという経験もfor meタイプの方に多いようです。

For youタイプの方は在宅サービスの分野に向いている

冒頭で自身が頂戴したクレーム案件を「利用者・ご家族の満足度アンケート」に昇華したスタッフのことをご紹介しましたが、彼は、自分をfor meタイプだと分析していました。For meタイプの方は相手の側から現象を捉えることがfor youの方より得意ではないため、こうしたポジションチェンジの手法(顧客満足アンケートなどを作る機会)がリフレクションの機会になります。なので、どんどんこうした役割をとることが自身を利用者側の視点に近づけます。逆にfor youの方は相手の側から現象を捉えるのが得意なのですから、ずばり在宅サービス分野に向いています。でも逆に、相手のことを考えすぎるあまり、自分の意見を言えなかったり、的確なアドバイスができなかったりということで悩むこともあるでしょう。そうした面から考えると、for me とfor youのタイプがひとつの事業所にいて意見交換をすることが更なるサービスの向上につながると言えそうです。

「何があったらできるのか」と考える思考の習慣がある人が在宅分野で選ばれる

私の会社は人材紹介や派遣もやっているのですが、数年前、ある病院に「看護部長候補」で紹介予定派遣をしようとした看護師さんがいました。就職して数日でその看護師さんは「あれがない。これがないから業務ができない」「最新の物品が全然そろってない。今どきこんな病院があるなんて信じられない」と言い始めました。その病院にはうちからもうひとり派遣されていたスタッフがいたのですが、そのスタッフに聞くと、「確かに、物品はかなりそろってはないです。でも、昔の病院ってこんな感じでしたから(笑)。少しずつ言ってそろえていかないととは思ってますけど、急にいろいろ言うと自分の病院を否定されたと感じると思うので、徐々に提案していきます」と言う答えが返ってきました。(とても柔軟です。)続いて看護部長候補のその看護師さんが「カンファレンスだって十分じゃないし、感染委員会だって形ばっかり。そのうち大きな感染が起きてもおかしくないですよ」と予言者のように言うので、「〇〇さん、私は『何があったらできるのかを提案できる看護師さんなので看護部長候補に最適です』としてご紹介しているので、いろんな提案と改善案を出してくださいね」と話しましたが、結局は現場のスタッフに受け入れられずにその看護師さんは退職することになりました。(うわさでは次の職場でも受け入れられずに降格となってしまったようです)在宅では特に『何があったらできるのか』という思考が大切になります。病院と在宅での大きな違いのひとつにコストのことがありますね。病院でも「コスト意識を持て」とよく言われますが、自分の家計のことのように病院のコストのことを考えると夜も眠れないという方はいないと思います。(すごく意識している方がいたらすいません!)病院ではマスクや手袋や消毒薬も感染予防の名のもとに使えますが、その物品を買うお金が自分のお財布からでていくとしたら、、、、。やはり慎重にならざるを得ません。消耗品なんて1円でも2円でも安いものでいいと考えるし、納得しない物品なんてそもそも買いたくはありませんよね。そういう気持ちを汲むことができるかというのが在宅サービスの分野では重要なカギになってきます。感染対策ひとつにしても「石鹸でしっかりと手洗いをすれば消毒薬に匹敵する感染予防になるんですよ」とか、たとえ家族に感染症がでたとしても、「衣類は他の家族のものとわけて洗濯をすればウイルスは死滅するので大丈夫なんですよ」とか、「特別な消毒薬でなくともこの食器用洗剤をこのコップにここまで入れて(線を引く)水をここまで入れると消毒薬と同じ効果があるんですよ」などと、エビデンスを相手が理解できるような言葉を選びながら説明ができ、なおかつ利用者を感染から守ることができる。こんな能力を持つ人が利用者やご家族に選ばれます。こんな人がいたら私も直ちに指名します。でも、逆もあることを頭に入れておく必要もあります。100円、200円しか違わないなら消毒効果が高い「いいものを買いたい」と思う利用者さんもいますし、「コストをかけること=家族を大事にしている証」というご家族だっています。「在宅=コストカット」というのもまた、先入観となり得ることを忘れてはならないと思います。大切なのは、支援する対象の価値観をすばやく見出し柔軟に関わっていくことができるかどうかです。在宅分野で選ばれるのは、相手の視点で物事を捉えることができ、自身の言動をリフレクションする能力を持ち、「何があったらできるのか」と柔軟に考えることができる人だと私は思っています。

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