選ばれる看護師になるための「スキル」とは
前回は、選ばれる看護師になるための「あり方」について、私なりの考えをお伝えしました。日本は諸外国に例を見ないスピードで高齢化が進んでいて、2025年(令和7年)には800万人の団塊の世代すべてが75歳(後期高齢者)以上になります。高齢者が増えれば、医療や介護の需要も急増しますが、それらの方々すべてを病院で支えることはとても無理な話です。なので、重度な介護状態になっても住みなれた地域で人生の最後まで過ごすことができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるような、「地域包括ケアシステム」の構築を日本は急ピッチで進めてきました。こうした社会背景からこれからは確実に看護師の活躍する場所は在宅分野に広がっていきます。そんな状況を鑑みて、今回は在宅医療やサービス分野や「選ばれる看護師になるためのスキル」とは何かを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
振り返り(リフレクション)をする能力と仕組みを作ろう!
自分自身、および自分のケアやサービスに関して顧客満足度調査をしよう
まずは「見た目」を磨く
本連載の第9回で「人は見ためが9割」とお伝えし、弊社の講師認定で活用しているプレゼンテーション力をアップする評価シートをご紹介しました。この評価シートの一番目の項目は文字通り「見た印象」です。次に姿勢、動作、表情、声と続き、これらは「非言語的なコミュニケーション」とも呼ばれますね。
コミュニケーションは言語的と非言語的コミュニケーションに分かれています。人がメッセージを伝えようとするとき、93%はこの非言語的コミュニケーションから伝わっていると言われます。メラビアンの法則によれば、言語的にメッセージが伝わるのはわずか7%。いかにノンバーバルコミュニケーションが重要なのかがわかりますね。特に、第一印象は3秒で決まると言われています。初めて人と会うときは、特にこの非言語的の部分を整える必要があります。どんなに思いやりがある人でも「相手に心を取り出して見せることはできません。」見えないのですから、相手は見た目で判断するしかないのです。
私の会社では人材紹介もやっていますが、数年前、ある病院の採用面接に茶髪で登場した看護師さんがいました。さすがにドラッグストアで髪の毛を「黒色にもどすスプレー」を買ってもらい、黒色に染めて面接をしてもらいましたがさすがに驚きました。きっとその看護師さんはその茶髪のままで何度か面接を受けて採用された経験があったのかもしれません。でもその後、「採用面接に茶髪で来る非常識な人」と思われるような成功体験ならない方がよかったのかもしれないと思いました。皆さんは、自宅のインターホンに派手な人が映っていたとしたら家の中にあげるでしょうか。あげないですよね。いかに素晴らしい看護の技術をもっていたとしても、茶髪では自宅にあげてはもらえません。利用者さんの自宅に入れてもらうには、「見た目」はとっても大事です。特に、他の訪問看護師が関わっているお宅へ初めて伺うときなどは当然、前の看護師と比べられます。「前の人(看護師)の方がよかった」「この人、変えて」と言われないようにするためにも外見を整えましょう。若いうちは「見た目」を注意してくれる人もいます。でも、年齢を重ねて貫禄がついた人に憎まれてまで誰も「身だしなみ」や「見た目」について言ってくれることはありません。そして人は自分のことを見ることは不得意です。だから人から教えてもらって(顧客満足度調査をする)自分のことを日々、ふり返ることが一番、手っ取り早い方法です。
表情を管理する能力を身に着ける
本連載の第2回でも触れた「表情管理」。相手が求める表情でそこにいることを表情管理と言いました。在宅では図らずとも様々な家庭の事情や他者には知られたくない情報を得ることがあります。それらを知ったときの表情の管理もまた重要です。知られたくない情報を知ってしまったときは真摯な表情でその場に存在していたいものです。これも他者評価から自分の表情を改善するのが一番の近道です。ある訪問看護ステーションに、利用者が買った電化製品を見て担当の訪問看護師が『こんな高い製品はあなたの家には必要ないでしょう』という顔をしたというクレームが入りました。担当看護師は「そんな顔していません」というのですが、コミュニケーションにおいては『伝わったことが伝えたこと』です。サービスを提供した相手がそう感じたというのならもう仕方がありません。病院ではなく自宅にいるのは患者ではなく「利用者さん」だからです。利用者は「サービスを選ぶ立場にいる」というところが病院と在宅での大きな立ち位置の違いになります。この場合、「したか、しないか」が問題なのではなく、双方の「コミュニケーションが上手くいっていなかった」ということが問題です。クレームをもらった看護師側は「自分のどんな表情が相手にそう感じさせてしまったのか」をこの件でふり返り、改善すべきところをするということが重要ですね。もしかすると「そんな顔に見えた」だけかもしれませんが、何かのきっかけで「コミュニケーションが取れていない」ということを相手は訴えたいのかもしれません。いずれにせよ、利用者さんが嫌がらなければ、この看護師さんが「気分を害する対応をしてしまい、申し訳ありませんでした。改善していきたいので、教えてくださいませんか」と詫びて、コミュニケーションを回復するのが一番の解決策です。でも、クレームの予防の対応(本連載第1回)が身についていないと「お詫びをしたつもりでも、全然お詫びになっていない」とますます相手を怒らせてしまうかもしれません。この段階にある方はまずはクレーム予防のスキルを身につけることが先決です。
クレームにしっかり向き合うことで逆に誠実さを伝えることができ、「ピンチがチャンスに変わった」「あなたに担当してほしい」とその利用者さんがファンになってくれたという事例はよくあるものです。要は、相手の視点(こだわりならそのこだわり)から自分の対応を調整することができるかがどうかで、その後のいい関係をつくれるかどうかが決まります。前回、ストレスが降りかかったとき、外罰的な機制(人や状況など自分以外の外側に原因があると責任転嫁する)を用いる人がいるとお伝えしました。クレームを頂戴したとき、「私、そんな顔してません」「私、そんなこと言ってません」にこだわる人は、相手の目で状況を見ることができません。そもそも「私は、私は」と、自分の側からしか物事を見ることができないのでクレームが起きているのです。(コーチングではこの状態をfor meと言います。これについては次回)繰り返しになりますが、自分のケアやサービスの質をあげていくには「相手の見方で自分をふり返り調整する」ことが肝なのです。 よく「私、思ったことがすぐ顔にでちゃうんですよね」という人がいますが、それは顔に出ること自体が悪いのではなく、「思っていることがよくない」ので、思考の改善が必要になります。
「声の大きさ」と「出す音の大きさ」に気を配る
先日、研修終了後のアンケートに「叱られたんだけど今となってはは感謝に変わっていること」を記入する項目を入れました。その中に『指導者に「あなたの受け持ち患者さん、難聴じゃないよ」と言われたが何でそんなことを言われたのか最初は分からなかった。あとで患者さんから「あんたの声はうるさい」と言われて、「自分の声は大きすぎるんだ」ということが分かり改善することができた。傷つけずに気づかせようと思って言ってくれた指導者さんに今でも感謝している』というものがありました。自分の声が大きいということも自分では気がつきにくいものです。身体的な問題を相手に言うのはよくないことだという意識が働き、声の大きさ問題はフィードバックされづらいので、これも満足度調査などを介して気づけるようにしていくことがおススメです。ちなみに歳を重ねるにつれ、最近私は耳鳴りがひどいのですが、時々夫に「ちょっと声でかいよ」とか「TVの音、うるさいよ」とか言われることが多くなりました(泣)自分の声が大きい人や大きい音を立てる人の背景には難聴や耳鳴りがあることがあります。でも、それはこちら側の問題ですね。相手にとっては「うるさいものはうるさい」のですから、こちらが配慮をする必要があります。
立ち居振る舞いや所作&動作
いつもニコニコ表情管理が上手くできている訪問看護師が帰り際に履いていた靴下を汚いもののように指でつまんでビニール袋に入れた仕草を見て、「本当はこの人、私の家を汚いと思ってるんだな」と、ショックを受けたという利用者さんがいました。期待値が高いと(理想化)落ちる(脱価値化)のも急降下ということもあります。あいさつをするというのが「表現」ならば、これらのうっかり出てしまったことは「表出」と言います。これも「そんなつもりはなかったのに、、、」なのですが、クレーム集などを読んだり、事業所単位で勉強会を開催したり、定期的にふり返りを行うなどして、「相手の目で自分の言動を考える機会」を作り、サービスの強化を行うのが結局のところ近道になります。
満足度アンケートでふり返りをする習慣を身につける
上記は私が訪問看護ステーションや小規模事業所に提供している満足度調査アンケートのひな形です。担当者個人に向けたアンケート調査を本当はやりたいと思う管理者は多いものです。でも、実際はやっているところはほんのわずかです。どこも看護師不足で困っているので、「担当者個人に向けたアンケートをするなんて言ったら辞めるという人がでてきてしまう」というのが管理者の本音だからです。でも、それでは「利用者主体のサービス」ではなく、「スタッフ主体のサービス」に留まってしまいます。看護師のスキルアップのための勉強会の開催やSNSでの情報発信、就職合同説明会への参加、イベントプロモーションの定期的な開催等で、「利用者主体の質の高いサービス」を本気で提供したい仲間を見つける努力をして、まずは、看護師が集まる組織を作っていくことがサービス向上の根本解決になります。つまり利用者へのサービスを提供する仕事と「看護師リクルート」に向けた動きを両立させることが在宅分野のサービスの質の向上のカギになるのです。
在宅サービス分野で選ばれる人とは、ふり返りができる人
結局のところ、以前の担当ナースから新しい担当者へ変わったときに選ばれる看護師とはどういう人かと言うと、「私の対応でもっとこうしてほしいということはなかったでしょうか?」と相手がニーズを表出しやすい環境を作り、その答えでより利用者に合ったサービスを提供できる人です。アンケートなどのツールをうまく活用したりしながら相手の目で自分自身のサービスをブラッシュアップさせていき「選ばれる看護師」になりましょう。
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